私たちには、真実の願いというのが存在します。
そして、それはしばしば顕在意識で考える思いとはズレがちです。
それはちょうど、表面上はブランドのバッグが物欲的に欲しいだけだとしても、本当の内面は、自慢したいだけだったりとか、そういう形が一つの表れです。
しかし、これなどは、ズレているのは確かですが、致命的にズレてはいないので、実際のところ、何も問題は起こりません。
問題があるのは、そのズレが、矛盾を引き起こすレベルでズレているときのお話です。
コーザル層に刻まれたストーリーが、いわゆる、「引き寄せの法則」などよりも上位に位置しています。

ありとあらゆる、術よりも強いのです。
ある時、あなたは、女神様に祈ったのです。
真実の愛が欲しいと。
奇跡の泉の水面は光に揺れています。
そう、今なら全ての願いは叶います。
なぜなら、雲ひとつないからです。

幼少の頃からの夢に心躍らせて、あなたは日々を過ごしたのでした。
そんなある日のことです。
素敵な彼に出会いました。
とても熱烈な印象を受けて、これは、愛されている実感がありました。
あなたは、受け入れる姿勢に入りました。
そうしたところ、どうしたことでしょう。
急激に相手の熱が冷めたように、音信が弱まっていきました。
これは、おそらく力が切れたと思ったあなたは、さらに強烈な引き寄せを発動させました。

完全に、彼との関係は終わりました。
愕然としましたが、まあ、元々縁がなかったのだと、気持ちを切り替えました。
その気持ちの切り替えがスイッチになったように、さらに素敵な人に出会いました。
なるほど。こういうことだったんだ。あなたはそう思いました。
前の人は、踏み台で、この人と出会うために、離れていったんだ。
引き寄せの法則、ありがとう!!

あなたは、天に向かって感謝の意を述べました。
そう、いつだって、天は私の味方。
全ては絶好調!!
しかし、何やら不穏な空気が漂っていました。
いや、表面上は至って問題ありませんでしたが、これは直感です。
何かが、おかしかったのです。

そして、カーテンは開きました。
窓の奥には、奥さんと子供との、食卓が広がっていました。
あなたと彼との間には、ぶ厚い防弾ガラスが一枚、隔たっていました。
ガラス越しに目が合った時。
彼は目を背けました。
私は一体何が間違っていたのだろう。
いくら考えても分かりませんでした。
そして、今度こそはと、強烈に祈りました。
必死に祈りました。

その祈りは雲を切り裂き、光のドレープを地上へと降り注がせました。
出会ったのです。最高の人と。
彼は、有名人です。
忙しい人で、ほとんど会えませんが、会えた時は、夢のような時間を過ごしました。
しかし、最初は良かったものの、ほとんど会う時間がないことに限界を感じ始めました。
彼は仕事が一番です。私が一番ではないとはいえ、今までのような不信は一応ありません。

ですが、次第に、寂しさから苦しみの方が、勝ち始めました。
そして、あなたは目覚めました。
そうだ。完全に間違っていたんだ。
私は、追いかける恋愛ばかりを祈っていたからこの結果になったんだ。
初めから、追いかけられる恋愛を祈れば良かったんだ。
あなたは、また奇跡の泉へと出かけ、女神様に祈りました。
有名人の彼への想いを、全て、泉に投げ捨てました。
そうしたら、女神様が現れました。

あなたが落としたのは、有名で素敵な彼ですか?
それとも、無名で真面目な彼ですか?
私は、無名で真面目な彼ですと答えました。
彼との生活が始まりました。
しっかりと時間をつくってくれるし、真面目に私を愛してくれました。
今までとは、全く違った時間が流れました。
そう、全く違う時間が。

世界はモノクロ写真でした。
蛍光灯の色は青白かった。
ガラスのコップは曇っていました。
私は、奇跡の泉に戻ってくると、またもや彼を投げ入れました。
出てきた、女神様を罵倒し続けました。

全てを言い終わった時、女神様がそれでは、この金の斧を差し上げましょうと、あなたにくれました。
そうか。そういうことだったんだ。
私は、夢が欲しかったんだ。
ずーっと、同じことを繰り返していたんだ。
私は、今、素敵な彼と付き合っていた。
夢の終わりが見えてきた。
私は、金の斧を振り翳して、円環を断ち切った。
